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腰痛症

鍼灸の対処で最も多い適用例の一つとされ、筋・筋膜型(所謂「ギックリ腰」)、腰部捻挫、神経根型、椎間板ヘルニアが当症の代表例です。

 

 

A)腰部捻挫型:交通事故により5個有る腰骨周囲の運動器が炎症、損傷されて引き起こされます。坐骨神経痛を併発することも多々有ります。

 

唯、総合病院や整形外科ではX-P(レントゲン撮影)やMRI、CTによる観察と投薬(湿布や筋弛緩剤等)に止まる事が多く、はっきり言って盥回しにされているのが現状でもあります。

 

当症は鍼灸施術の適用疾患であり、患部周辺の経穴や経絡に刺鍼または施灸(標治)するのが基本ですが、それだけでは施術としては不完全です。「本治」と呼ばれる、仰臥位での刺鍼/施灸をも併術します。

 

 

B)神経根型:病院や整形外科等で所謂「脊柱管狭窄症」と診断されることが多いのがこのタイプに分類され、腰椎に剪断力が働き発生すると考えられており、腰部から下肢に向けて走行している神経が腫脹や運動器によって圧迫される事で、運動制限、腰痛と同時に下肢への痺感、疼痛を発生させます。

 

上記の「腰部捻挫型」で発生する事も多いのですが、やはり姿勢がものをいいます。

 

 

C)筋・筋膜型:所謂「ぎっくり腰」と呼ばれているのがこのタイプであり、若年層ではこのタイプの腰痛は比較的強く発症します。体幹の脊椎付近の内圧が高いことが原因であり、その内圧を軽減させる方向でもっていきます。急性期は上記の「腰部捻挫型」に掲載した通り「炎症を即座に抑制して症状を増悪させない、且つ他の随伴症を出させない」対処が必要となります。他方、慢性期は緊張緩和の方向性でいきます。

 

 

D)椎間板ヘルニア腰椎間に有る軟骨(椎間板)中の髄核(ゼリー状物質)が軟骨から飛び出して神経を圧迫し、腰の痛みだけでなく、臀部や下肢の痺感、疼痛を発生させます。

対処は概ね「腰部捻挫型」が中心となります。

 

 

E)不良姿勢型:円背(所謂「猫背」)に依るものは、主として上半身の筋力低下が原因とされます。特に長時間の読書や受験勉強、PC、 スマホ操作で顕著となり、肩甲骨が左右に伸張されたまま保持される事で前面の大胸筋(上肢の内転に作用)や小胸筋、側面の前鋸筋が過緊張状態に晒された結果として引き起こされるタイプが該当します。慢性的腰痛の大部分は不良姿勢が原因といっても過言ではありません。

 

F)妊娠初期型読んで字の如くと言った具合ですが、特に妊娠初期は腹部の冷感(特に「丹田」と呼ばれる下腹部)から子宮の冷感に直結し、腰痛を引き起こし易いとされます。子宮の冷感は様々な不定愁訴の要因に繋がりかねませんので、その対処が肝要です。

当院での対処法

 

病証のタイプとして多いのが「腎虚」であり、次いで「肝虚」といった具合で、「腎虚」の対処:「尺沢」(手太陰肺経:肘関節の肘窩横紋上、上腕二頭筋外方)と「復溜」(脚少陰腎経:アキレス腱の前縁)、又は「肝虚」の対処:「陰谷」(脚少陰腎経:膝窩横紋上、半腱様筋(別名「スプリンターマッスル」)外縁)と「曲泉」(脚厥陰肝経:膝窩横紋内側端)に刺鍼又は施灸することを最初に行います(以降「本治」と称します)

 

次いで「標治」として患部そのものへの対処をしていきます:腰方形筋や腰腸肋筋、及び臀部周囲の筋群及び経穴に刺鍼又は施灸。

 

不良姿勢が主因の場合は、「雲門」(手太陰肺経)や中府(同経)、「周栄」(脚太陰脾経)、「庫房(脚陽明胃経)等の大胸筋及び小胸筋に施術する場合が有ります。前鋸筋へ施術する場合は、刺鍼では気胸のリスクが有りますので、側臥位で患側の腕を挙上若しくは外転させて施灸することになります。

 

妊娠初期型の場合は、腹部への施灸は温度に注意しなければなりません。幾ら冷感が強いからと言って、高温の温灸では逆効果になってしまいますので、ソフト灸又は低温の温灸とします。

そして、「三陰交」(脚太陰脾経)をしっかりと加温します。この「三陰交」という経穴は、女性のみならず男性でも腰痛や更年期以降ではもってこいの、正に「マスト経穴」、つまり外せない部位とされます。